4つの変数:接触面積編

抽出の言語化

はじめに:粒が小さいと、なぜ早く溶けるのか

同じ重さの砂糖でも、角砂糖はなかなか溶けません。

粉のように細かい砂糖は、あっという間に溶けます。

違うのは量ではなく、お湯に触れる面の広さです。

コーヒーの粉でも、同じことが起こります。

今回は、4つの基本変数の2つ目、挽目で直接動く接触面積です。

挽目を変えると、なぜ抽出の進み方が変わり、濃さまで変わるのでしょうか?

結論:接触面積は、お湯が触れる「窓口」と、成分が出てくる「距離」で決まります。細かく挽くと、窓口が増えて距離が縮まり、抽出の速さが上がります。


接触面積は、「窓口」と「距離」で考えられます

ハンドドリップでの接触面積とは、お湯が触れる「窓口」と、成分が出てくるまでの「距離」を決める変数です。

  • 窓口:お湯が触れる面の合計です。粉全体の「総表面積」にあたります。粉の量と、粉1gあたりの表面積で決まります
  • 距離:粒の内部から表面まで、成分が出てくるまでの道のりです。粒の大きさで決まります

挽目を変えると、窓口と距離が同時に動きます。

粒が小さいほど、粉1gあたりの窓口が増えて、距離は短くなります。

(図:粒の大きさと、面積・距離の関係)


1. 窓口:粉全体の総表面積

1つ目は、1回のドリップで使う粉全体の「総表面積」です。

粉すべての表面積を足したもので、お湯と粉が触れる窓口の合計にあたります。

粉の量を増やせば、総表面積も大きくなります。

窓口が増えるので、取り出せる成分の絶対量が増えて、カップの味は濃くなりやすくなります。

ただ、湯量を同じにしたまま粉だけを増やすと、粉1gあたりに使えるお湯は少なくなります。

すると、抽出率(粉の何%が溶け出したか)は、むしろ下がりやすくなります。

つまり、粉量の話は、濃さに関わる、粉とお湯の比率の話でもあります。

この記事では、挽目で動く接触面積に絞って進めます。


2. 距離:粒が小さいほど、出てくるまでが短い

コーヒーの成分は、粉の粒の内部にあります。

お湯に溶けたあと、拡散によって表面まで移動して、お湯の中へ出ていきます。

粒の表面の成分はすぐに溶け出し、内部の成分は時間をかけて出てくる、と考えられています。

粒が小さくなると、内部から表面までの距離が短くなります。

すると、短い時間でも、成分が出てきやすくなります。

同時に、粉1gあたりの窓口も増えます。

距離の効き方は大きく、粒の大きさを半分にすると、内部から成分が出てくる時間は、およそ4分の1になります。

これは、距離の2乗で効く、という拡散の一般的な考え方にもとづく目安です。

この数字そのものを、コーヒーの粉で確かめたものは、見つかっていません。

全量浸漬(粉をお湯に浸けて置く方法)で比べた報告でも、挽目が細かいほど、抽出率はわずかに高くなりました。


3. 微粉は、窓口が極端に多い粉です

挽いたときにできる微粉は、粉1gあたりの表面積が極端に大きい粉です。

お湯に触れるとすぐに成分が出るので、濃さや味に、大きく影響します。

多すぎると、苦味や渋味として出やすいと言われます。

また、微粉は、粉と粉のすき間を埋めて、お湯の通り道を狭くします。

そのため、お湯が落ちる時間(接触時間)や、流れ方(流動状態)にも影響します。

細かく砕くと、細胞が壊れる

コーヒー豆は、小さな穴がたくさんある、多孔質な細胞構造をしています。

細かく砕くほど細胞が壊れて、水に溶ける成分が、お湯に直接触れやすくなります。

その結果、粒の表面からすぐに出ていく成分が増えます。

ただ、溶ける成分の総量は、大きくは変わりません。

粉に含まれる量は決まっていて、変わるのは「どれだけ出てきやすいか」です。

(挽目によって、実際に取り出せる量が少し変わる、という報告もあります。)

※ コーヒーのオイル分は、水にほとんど溶けません。紙フィルターでは、大半が抽出液に入らずに取り除かれます。


4. 湯温で速めるのと、何が違うのか

抽出を速める方法には、湯温を上げる方法もあります。

この2つは、起きていることが違います。

  • 温度を上げる:成分の「動きやすさ」を上げます。粉の大きさやお湯の流れには、ほとんど手を付けません
  • 接触面積を上げる(細かく挽く):成分が出てくる「距離」を縮めて、窓口を増やします。動きやすさ自体は変わらず、おおまかには、全体が早送りされるイメージです。ただ、お湯の通り道も変わるので、落ちる時間や流れ方も動きます

一般に、挽目は大きく動かす調整、湯温は細かく動かす調整として使われることが多いと言われます。


5. 挽目は「操作」、接触面積は「変数」

挽目(ミルの設定)は操作で、接触面積は変数です。

同じ「中挽き」に設定しても、次のもので、実際にできる粒の大きさは変わります。

  • 豆の焙煎度(浅煎りか深煎りか)
  • 豆の多孔質性や硬さ
  • ミルによって生じる微粉の量

変数として考えたいのは、設定の数字ではありません。

実際にできた粒の大きさ(粒度)と、そこから決まる窓口と距離です。


まとめ:接触面積は、「窓口」と「距離」を決める変数です

  • 接触面積が大きい(細かい):窓口が多く、距離が短い。同じ時間なら、抽出が進みやすい
  • 接触面積が小さい(粗い):窓口が少なく、距離が長い。同じ時間なら、抽出が穏やか
  • 挽目を変えると、窓口と距離が同時に動き、落ちる時間や流れ方も動く

接触面積は、抽出の進みやすさを決める変数です。

抽出できる成分の上限は、粉に含まれる「お湯に溶ける成分」の量で決まります。

挽目では、大きくは変わりません。

温度が「動きやすさ」を決めるのとは、働き方が違います。

挽目を細かくしたとき、味のほかに変わったことは、何でしたか?


次回予告

次回は、抽出を「どこまで続けるか」を決める「接触時間」を見ていきます。

同じ粉でも、お湯と触れる時間で味が変わるのはなぜでしょうか?

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