はじめに:何秒で淹れるのが正解?
紅茶のティーバッグを、カップに入れっぱなしにして、渋くなってしまった。
そんな経験はありませんか?
コーヒーでも、時間が長いほど、味は濃く、強くなっていきます。
よく聞かれる「何秒で淹れるのが正解?」は、お湯と粉が触れ合う時間、つまり接触時間の話です。
ただ、大事なのは秒数より、その時間のあいだに、粉の中で何が起きているかです。
今回は、4つの基本変数の3つ目、接触時間です。
結論:接触時間は、速さではなく、抽出をどこまで続けるかを決める変数です。短いと前半の成分が中心になり、長いと後半の成分まで出てきます。
先に整理:接触時間・抽出率・濃さ
- 接触時間:お湯と粉が触れている時間。ドリップでは、お湯を注ぎ始めてから落ちきるまでが、おおよその目安です
- 抽出率:粉の重さのうち、何%が溶け出したか
- 濃さ(TDS):カップの中の液体の濃さ。抽出率と、粉とお湯の比率で決まります
接触時間を長くすると、基本的に抽出率は上がります。
ただ、上がり方は、温度や粉の細かさでも変わります。
時間は「入力」、抽出率は「結果」です。 混同しないようにしましょう。
同じお湯に触れ続けると、何が起きる?
粉を同じお湯に浸け続けると(浸漬式)、お湯が成分で濃くなっていきます。
すると、成分が出ていく勢いが、だんだん弱まります。
全量浸漬で試した報告では、時間がたつと、濃さがほぼ一定になりました。
厳密な平衡ではなく、「疑似的な平衡」と呼ばれる状態です。
つまり、時間が長いほど、抽出は進み、やがて頭打ちに近づきます。
この考え方は、ドリップにも、方向としては同じように当てはまります。
時間が長いほど、粉の中の成分は、お湯へ出続けます。
ただ、ドリップでは、新しいお湯が流れ続けます。
そのため、粉とお湯が行き着くところまで落ち着くことはなく、濃度の差が保たれたまま、成分が出続けます。
なお、蒸らしの間は、浸漬に近い面があります。
接触時間は、粉がお湯に触れ続ける長さです。ドリップでは、落ちきるまでの時間が、その目安になります。
この章は、基礎となる考え方を理解するための章です。
実際の淹れ方での使い方は、操作の記事で扱います。
なぜ、時間で味が変わるのか
理由は3つあります。
① 最初は速く、だんだん遅くなる
注いだ直後は、粉の中には成分が多く、お湯の中にはほとんどありません。
この差が大きいので、成分は勢いよくお湯へ移動します。
お湯の中の成分が増えていくと、差が小さくなり、移動はゆっくりになります。
そのため、時間が短ければ、勢いよく出る初期の成分が中心になります。
時間が長くなると、遅れて出てくる成分まで、少しずつ追いついてきます。
② 成分ごとに、出てくる速さが違う
コーヒーの成分は、すべて同時に出てくるわけではありません。
大まかには、次の順に出やすい傾向があります。
- 前半:酸味に関わる成分
- 中盤:甘みやコクに関わる成分
- 後半:苦味や渋味に関わる成分
ただ、きれいに区切られた順番ではなく、重なり合いながら進む傾向です。
この傾向があるので、接触時間は、どこまで進めるかによって、活かしたい味の傾向を選ぶことにつながります。
③ 粒の中を移動するのに、時間がかかる
粒の表面にある成分は、先に洗い流されます。
粒の内部の成分は、時間をかけて表面へ移動して、出てきます。
内部からの移動はゆっくりなので、ここに時間が必要になります。
時間と味の関係
| 接触時間 | 起きること | 味の傾向 |
|---|---|---|
| 短い | 早く出る成分が中心 | 酸味が目立つ、薄い、物足りない |
| ちょうどよい | 酸味と甘みなどのバランスがとれる | 豆の個性が出やすい |
| 長い | 遅く出る成分も混ざる | 苦味や渋味が強くなる |
「ちょうどよい」は、豆の種類、焙煎度、粉の細かさ、そして好みで変わります。
絶対的な正解の秒数はありません。
抽出率は「目安」。味を決めるのは濃さと成分です
濃さ(TDS)と抽出率は、似ていますが、別のものです。
- 濃さ:カップの液体の濃さです。味に直接関わります。抽出率と、粉とお湯の比率で決まり、粉を増やしても濃くなります
- 抽出率:粉のうち、何%が溶け出したかを表す割合です。味そのものではなく、抽出がどこまで進んだかを示す目安です
味を決めるのは、液体に、何がどれだけ溶けているか(濃さと、成分の組み合わせ)です。
たとえば、同じ成分が同じだけ、同じ量のお湯に溶けたカップなら、粉の量が違っても、味は同じです。
ただ、抽出率は、粉が少ないほど高くなります。
実際には、抽出が進むほど、後半に出る成分が増えて、成分の組み合わせが変わります。
抽出率は、その「どこまで進んだか」を映す目安として、役に立ちます。
ドリップで試した報告(湯温87〜93℃)では、濃さと抽出率のどちらの違いも、味にはっきり出ました。
抽出率が変わると、成分の組み合わせも変わりやすいためと考えられます。
苦味は、濃さと抽出率の両方で増える傾向がある、とも言われます。
抽出率の目安として、18〜22%がよく使われます。
これはSCA(スペシャルティコーヒー協会)の基準で、1950年代の図に由来します。
「この範囲が正解」という意味ではなく、自分の好みを探す出発点として使いましょう。
抽出率は、測る道具がないと求められません。
家では、味のバランス(薄くて酸っぱいか、苦くて重いか)で見るのがおすすめです。
ドリップならではのポイント
- 「お湯が落ちきるまでの時間」は、接触時間を知る目安です。ただ、粉の細かさや注ぎ方でも変わるので、その秒数にすること自体が目的ではありません
- ドリップでは、終盤に出てくるのは、薄くて、えぐみの多い液体だと言われます。そこで、落ちきる前にドリッパーを外すことで、後半の成分を切る方法があります
ほかの変数と補い合う関係
接触時間は、温度や接触面積と補い合う関係にあります。
- エスプレッソ:抽出時間が短い分を、極細挽き(接触面積)で補っています。ただ、圧力をかけて強制的に流すなど、ドリップとは条件が異なります
- 水出し:低温で成分が出にくい分を、長い時間で補っています
ただ、温度と時間は、挽目と時間ほど単純には交換できません(同じ抽出率でも、味が違います)。
接触面積と時間も、おおまかには補い合えます。
でも、お湯の通り方などが変わる分、完全に同じ味にはなりません。
まとめ:接触時間は、抽出の長さを決める変数です
- 接触時間は、抽出を「どこまで続けるか」を決める変数です
- 温度と接触面積は、抽出の速さに効きます。接触時間は、その条件の中で、どこまで進めるかを決めます
- 時間は入力で、抽出率は結果(目安)です。味に直接関わるのは、濃さと成分です
そして、抽出できる成分の上限は、粉に含まれる「お湯に溶ける成分」の量(重さのおよそ3割が目安)で決まります。
どの変数を動かしても、この上限は超えられません。
あなたの一杯は、抽出をどこまで進めた味でしょうか?
次回予告
次回は、4つの基本変数の最後、「流動状態」を見ていきます。
お湯の流れ方は、「どう注ぐか」という操作の話に見えます。
でも、抽出の仕組みの上では、何を変えているのでしょうか?


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